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FalseIslandという定期更新型ゲームに参加中の、リコ・メルシェ(1227)の日記の保管とかPLの戯言とかです
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                  文法なんて気にしない
丸月逆三角を見よ!の日  Winning against shaven head



 闇の中から数え切れないほどの視線が俺を見つめていた。一つ一つの気配は非常に希薄で、俺の実力ではそれぞれの場所を特定することは出来なかった。だが、ガラスも重ねれば不透明になるのと同じように、俺の周りを包む殺気だけは異様に濃くなっていたのだ。森に入ったときは足下に無数にいた小さな虫達も、危険を察知したのかその時には皆もう俺の周りから逃げ去ってしまっていた。小さい生き物って逃げやすくて良いな。
 腹をくくった俺は暫く敵達が動き出すのを待っていたが、珍しい侵入者に彼らも警戒していたのだろうか、すぐに襲いかかると言うことはないようだった。動物達は物音一つ立てず、ただ木々の擦れ合う音だけがこの異変を楽しむように囁き合っていた。
 その森は明らかに異様だった。それに近い雰囲気を探すならば遺跡の入り口辺りにあった暗い通路だろうか。あの通路にも角を持った馬やらドラゴンやらでかいミミズやら、明らかに俺の実力では敵わないだろう生き物ばかりだった。生き物の強さで言えばそれと同じか、あるいは以上。
 逃げるための時間稼ぎをしようと適当に威嚇してみたら、逆に巨大なカブトムシの群れが俺に向かって来てしまった。敵意を持っていると見なされたのだろうか。逃げるのに必死で大きさまでは覚えていないが、少なくとも大型犬ぐらいの大きさはあったはずだ。
 そういえば、どこかでカブトムシが高値で売れるとか聞いたことがある。あの大きさならどうだろう。捕まえられたら億万長者になれるだろうか。俺がもう少し金の亡者だったら逃げずに立ち向かえたのだが、俺にはそんな度胸はなかった。一度は金の亡者になってみようかと思ったが、少し振り返って思い止まった。カブトムシ怖い。
 ようやくカブトムシを振り切った頃、今度は俺の背筋に妙な寒気が走った。それは先程までの殺気の類とは違った。効果音で言えばなんだろう。テルミン? そんな気味の悪い音を鳴らせる楽器を聞いたことがある。音しか聞いたことはないが、何でも楽器に手を触れずに音を鳴らせるとかそんな感じのものだったと思う。きっとそれを使う演奏者はもの凄く肺活量が良いんだろうな。楽器に触れずに息を吹き込むのはなかなか大変だろう。きっとケーキの上のキャンドルなんて何百本刺さってても消せるに違いない。
 さて、話しを戻そう。そんなホラー的な音と同時に追ってきたのは、火の玉だった。もちろん冒険者慣れした者にとっては火の玉など恐怖の対象ではない。いや、種類によっては攻撃が当たらなかったりする怖さがあるが、ともかくゾンビやら何やらと戦った経験だってあった俺だ。火の玉と出会う程度の肝試しなんて何てことはなかった。
 ただ、それでも俺が逃げたことには理由がある。至って簡単なことだ。その火の玉が先程のカブトムシのように大群で追いかけてきたのだ。その光景はまるでケーキの上のキャンドルのようだった。それもエルフの長老のバースディパーティ級。俺にテルミンを吹く技術があったら、きっと吹き消せただろうに。
 そうこうして逃げ惑っているうちに、結局数匹の敵に回り込まれてしまった。まぁ、大半は撒けたから良かったことにした。
 残った敵は大きなカブトムシ、大きな蛇、そして火の玉がそれぞれ一匹ずつ。先程までの大群と比べたらこの程度の数などさして苦にも成らないだろう。俺はうっすらと笑みを浮かべ、斧を大きく振り上げた。
 結果は語るまでもない。
 でも折角だから少しだけ書いておこう。カブトムシの体が凄くピカピカしていた。光どころか攻撃まで反射してしまうその表面に感動した。もしあんな鏡みたいなものにチャームが当たっていたらと考えるとぞっとしない。俺は一昨日の兎以上のリアクションを取ることになっていただろう。
 そういえば、カブトムシを集める人たちはどうやってあんなものを捕まえているのだろうか。捕まえるという行為が反射されて自分や仲間を捕まえてしまったりしないのだろうか。仲間をペット化したら凄く気まずいぞ。

 さて、そんなこんなで命辛々森から飛び出した俺は、比較的安全そうな平原に逃げ込むことが出来た。勢い余ってぶつかった壁が、ここが遺跡の中であるということを思い出させてくれた。ただし痛かった。
 それにしてもこの遺跡は何なのだ。入った途端に平原が広がっていたかと思えば、このような深い森の中を歩かされる。まるで現実をそのまま箱庭にしたかのような世界だ。きっと宝玉を見つけた奴は「幾多の山を越え森を抜け、雑草とかドラゴンとかを食べたり倒したり萌やしたり燃やされたりしながら、その冒険者はようやく七つの宝玉を見つけだすことに成功しました」みたいな感じで名前が伝えられるんだろうな。
 物語というのは大抵誇張されて伝えられる。世界中を探し回ったような書き方で伝えられたその叙事詩が、本当はたった一つの遺跡で繰り広げられた話なのだと子供達が知ったらどう思うだろう。
 そんなことを考えながら傷が治るのを待っていたら、俺が先程逃げてきた森から一匹の兎が飛び出してきた。兎の見分けに長けているわけではないが、何となく俺の直感が告げていた。あの兎は、俺が昨日の日記に書いた兎だ。具体的に言うと俺の顔を見て吹っ飛んだ奴だ。
 あのときはついムキになって追いかけてしまったが、もう少し俺が冷静に行動していればこんな事態にはなっていなかったはずだ。自分の失態を振り返ると、もうその兎を敵と見なすだけの気力さえもなくなってしまった。こちらに敵意がないのが向こうにも伝わったのか、幸いにもあちらから攻撃してくると言うこともなかった。俺の横たわっている前に座って、じっと俺の目を見ている。
 見つめている。
 仲間にして欲しそうな目でこちらを見ている。
 これは、どうしたものか。かつては止めを刺そうとした相手が、今は俺と手を組もうとしている。こいつも森を抜ける間にいろいろと悲惨な目に遭ったのだろうか。そう思うと何だか親近感が湧いてきた。和解の印に「おいしい草」を差し上げた。
 突き返された。
 変わりによく分からない袋を差し出された。どうやら中には兎の餌が入っているらしい。匂いを嗅いでみる。
 ウサギ小屋の匂いがした。
 こんなものでも今まで食べていたパンくずや草と比べるとカロリーはあるかもしれない。だが、兎の餌なんてモノを食べてしまったら人間としての威厳というか何というか、いろいろ失ってしまいそうな気がしてならなかった。
 ごちそうさまでした。

 とにかく、仲間となる以上は名前が必要だ。例え向こうに名前の意味など分からなくても、人間の性質として近くにあるものには名前がなければ気が済まないのだ。
 俺は悩んだ。この兎にもっとも適切な名前とは何だろうか。くりくりとした丸い目、ふかふかな白い毛、そしてその存在を強調する長い耳。
 おそらく、こんな危険な遺跡でさえなければ可愛い物好きな人間達からとても良い待遇を受けただろうこの動物は、今は貧弱な獲物として狩りの対象にさえ選ばれなくなってきた可愛そうな動物だ。だが、そんな動物であっても訓練さえすれば強くなることが出来るのだ。もしかしたらいずれタックルが凶悪になるかもしれない。もしかしたらいずれ火を吐くようになるかもしれない。
 そんなこともついでに考えながら小一時間。兎はその場から動かないでいてくれた。彼の態度からも俺に対する期待度がひしひしと伝わった。俺は痛む四肢を動かして起きあがり、時間をかけて練り上げた名前をその兎に付けてやった。
 その名も、ぴょん吉。
 何故か噛まれた。だが、そのダメージでは俺を倒すことはとても出来ないのだ。強制的にこの名前を突き通そうとしたが、どうにも必死に抵抗する姿に心を打たれてしまったので、もう少し考えてやった。
 そして俺は再び、良い名前を思いついた。もう否定されるような予感が全くしなかった。その名は誰もが羨み、そして求める至高の言葉。その名が付いていれば、もう誰にも負ける気がしないだろう。
 その名も、ぴょん大吉
 自信作だというのに、何故かタックルをかまされてしまった。兎と人間の感覚は違うのだろうか。いやいやきっとこれは兎なりの愛情表現に違いない。そういうわけでこの兎の名はぴょん大吉に決定した。
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