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FalseIslandという定期更新型ゲームに参加中の、リコ・メルシェ(1227)の日記の保管とかPLの戯言とかです
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砂の上の城



「まさかあんたが、人の言葉を喋れるとはな」

 長い沈黙のその後に、グラスレイはそう一言呟いた。
それが真っ先に浮かんだ感想だとは、レィレにはとても思えなかった。
この遺跡に凄む者の殆どは人の言葉を解することができる。
それどころか、見た目は明らかに声帯がなさそうな生き物でさえ、その言葉を話しているのだ。
それを考えると、彼にとってレィレが言葉を話すことも何ら不思議ではないはず。
ガルドンが喋った時点で、薄々感づいていてもおかしくない。
 それなのにそんな苦し紛れの感想しか出さなかったのは、
まだ彼の中で整理が終わっていないからに違いない。
 あの呟きは自分が思考を止めてはいないと言うことのアピールなのか、
あるいは話の本題をごまかすためなのか。
 どちらにせよ反応する必要のないことだ。
彼女が聞き出したいのはこの状況に対する彼の考え。
意味のない呟きに対して開く口はない。
 こちらに対応する気がないことを悟ったのか、彼は視線を地面に向けた。
再び、重たい沈黙が辺りを包む。

 レィレは先程、グラスレイに今自分たちを取り巻く状況を告げた。
彼がこの島に来て拾ったと言う日記帳が、ある種の魔力を帯びた本であること。
それはそれ自身に書き込まれた文章や、
周りで誰かが考えた思考を文字として取り込むということ。
恐らく文字を吸うことによって魔力を蓄えているのだろう。
文字にはそもそも魔力が宿っているのだ。
 魔力を持つモノが魔力を求めることは何ら不思議ではない。
 今問題となっているのは、その「求める」方法が次第に強引になってきていると言うことだ。
恐らく最初は、書き込まれた文字を取り込む魔力しかなかったはずだ。
だが、年月を経て多くの魔力を取り込んだそれは、いつしか他者の心を取り込めるようになった。
取り込むと言っても今までは何の危険はなかった。
他人の心をそのまま取り込むのではなく、模写しているだけだったからだ。
レィレも一度その対象にされたが、その時も何ら危険性は感じられなかった。
 だが、この数日で状況が変わった。
それはもう、小さな命の一つや二つなら容易に取り込めるようになっているのだ。
このまま放っておけば、この中の誰も喜ばない結末が訪れる。

 冷たい風が彼らに吹きつけた。
ここは遺跡の中とはいえ完全な密室ではない。
どこかにある遺跡のヒビから入り込んだ風がここまで届いたのだろう。
沈み込んだ沈黙をかき混ぜるように吹くその風は、いつしか灰色に染まっていた。
 その灰色が目に入らないように風下へ首を向けると、
風の音とは違う、不快な音がレィレの耳に入った。
ちらりと隣を見ると、彼女と同じように風の行く先へ首を向けた、グラスレイの歯が見えた。
彼はこの風を見て、どうしてここまで悔しがれるのだろう。
ガルドンは彼とは全く違う生き物だったというのに。
レィレにはその感情は理解できなかったが、それは問う必要のないことだった。
その疑問は、これ以上同じ目に遭うモノがいなければ二度と浮かぶこともないのだから。

「俺なら、今すぐにこれを壊すか、あるいは放棄する」

 そして、灰色とともに沈黙も飛び去っていった。
それは予想された答えの一つ。
至ってまともな解答だった。
出来るだけ穏やかな調子を装いながら、レィレは口を開いた。
一つ一つ、慎重に言葉を選びながら。

「……もし、これを壊すならば。
 これの中に蓄えられていた力が私達を飲み込むでしょう。
 もし、これを放棄するならば。
 いずれ力を蓄えすぎたこれは、無尽蔵に命を吸う、
 いわばブラックホールと成るでしょう。
 そうなればあなただけでなく……この島全てが危ういかも知れませんよ?」

 それは完璧な真実ではなかった。
その本はいわば今にもはち切れそうな風船で、壊せばダメージは免れない。
かといって放置すれば、
自らの限界を知らないそれはどんどん命を吸っていくだろう。
この島の弱者の命が尽きるまで。
 そう、その効果が顕著に現れるのはレィレのような力のないモノに対してのみなのだ。
掃除機で岩は吸いきれないということだ。
彼女の見たところ、万人がそれをブラックホールと呼ぶにはあまりに小さすぎた。
 ありのままを伝えたとして、その効果の及ばない彼が必ず協力するとは言えない。

「私は、ひとまずはこのまま連れていくのが最善かと考えます」

「……いつ爆発するか分からない爆弾を連れて行け、とも聞こえるが」

「そうですね……あなたは人間の赤ん坊を殺せますか?
 それは自分の身に爆弾が埋まってることなんて全く知りません。
 ……あれには意思が芽生える兆しがあります」

 そう、それには知能こそ無いが知識はある。
いずれ考えることが出来るようになると、先日の接触でレィレは確信していた。
 そして何より、それをちらつかせることでその本と人間とを関連づけやくなる。
人は雑草はためらうことなく刈り取れても、人間の首は簡単には刈り取れない。
それが人に近いものであると思わせておけば、グラスレイも簡単には破壊に踏み込めないはずだ。
 実際に生まれるのが人の子なのか、悪魔の子なのかは分からないが。
何処までそれが人の子だと錯覚させられるかが、最後の砦だろう。
 そしてその砦を、彼は取り出した。
その断片から植物の繊維が顔を覗かせている……かつては斧だった欠片を。
そして視線をその他の残骸へと向けた。

「仮にそれが意志を持つとして、安全なのか?
 次は……こんな被害では終わらないかも知れない」

 レィレは昨日の探索から帰ってきたときの光景を浮かべた。
辺りに散乱した斧の欠片、砕かれた薬の瓶、そして――動かなくなった、ガルドン。
これをどう説明すれば彼は納得するだろうか。
 目撃者がいれば解決、などという殺人事件でもない。
目撃された事実がレィレの望むものと違っていれば、話は余計ややこしくなる。
もしこの状況を全てこの日記帳が作り上げました、などと言われればお終いだ。
 まだこの日記帳を失うことは出来ない。
レィレはグラスレイの目に映る自分を見た。
この日記帳から生み出される赤ん坊に出会う必要があるのだ。

「私達が今まで接していた限り、そのようなことは起こっていません。
 おそらく、ガルドンは何らかの『禁忌』に触れてしまったのでしょう」

 この日記帳には、もともと他者を引きつける類の力がある。
これが求めているのは文字だ。
ガルドンもまたこれに日記を書こうとしたと仮定すると……。

「筆圧が濃すぎて、紙を破いてしまった……。
 おかしな事に聞こえるかも知れませんが、
 あなたがガルドンに肉を裂かれたと思えば、納得できますよね」

 正当防衛。
命を吸われていることに気づいたガルドンが、
抵抗するために辺りにあるものをがむしゃらに投げつけた。
直接的な攻撃をしなかったのは、近づくことが危険であると察したためである。
 これがレィレが立てた筋道だ。
それが合っているなんて確証なんて必要ない。
正解かどうかよりも、今はそれが正しいと思いこませられるかどうかが問題なのだ。

「このまま定期的に、これに危害を加えることなく、
 文字を与え続けさえすれば何ら問題はないはずです。
 今までしていたことを続けるだけで、当面の安全は確保できます」

 例え砂の上に作られた城だろうと、土台さえ見られなければそれは立派な城なのだ。
幸いにも、土台の事実を知る日記帳はレィレの視界の外に佇んでいるだけ。
グラスレイが城に入りさえすればしばらくはバれることはない。
そう、日記帳の当面の安全は確保できるのだ。
 そう言えば、先日から距離を置いてついてきている狼が
怯えたようにこちらを見つめていたが……まさか。
一度、問い詰めた方がいいかも知れない。
狼とは言えまだグラスレイに負けた傷があるはずだ。
いざというときは追い払えないこともないだろう。

「安全を確保したとして、そのままでは……」

「意思さえ持たせれば、危険性は完全に取り除かれます。
 ……まだ確実ではありませんが、案があります」

 もしその案で全てが解決できないと思われたなら、
燃やすなり海に流すなり、自由に対処して頂いて構いません。
 強い口調でそう告げると、レィレはその視線を日記帳に向けた。
今はまだ、その案が何であるかを告げることは出来なかった。
札に成りきっていない切り札。こればかりはもう少し確証がなければならない。
自信があるという態度で、札になるまでの時間を稼がなければ。
 この遺跡にそれを実行するだけの素材があることは確かなのだ。
日記帳とある程度の実力者。
グラスレイよりも利用しやすい実力者を捜しても良いが、それも今更な話だろう。
そもそも一から全てをやり直すと時間が足りなくなる不安があるのだ。
それを考えると、彼以外に使える人間はいない。
 視線は彼から離しながら、レィレの耳はじっと最後の答えを待ち続けた。
辺りにまた風が吹き始めた。
凍てついたその風は、意志を持たなくとも
その存在だけで辺りのモノを傷つけていく。

「……分かった。
 暫くの間は今まで通り続けよう」


 そして、グラスレイが城に入った。
その風にいつ吹き飛ばされるか分からない、儚い城の中に。
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