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FalseIslandという定期更新型ゲームに参加中の、リコ・メルシェ(1227)の日記の保管とかPLの戯言とかです
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フルートの音は錚々と






主を失った猫に、居場所などなかった。


 主がいなくなって暫くの間は、その家族とともにその場所に残っていた。
しかし主のいない場所はもはや猫の居場所ではなく。
その猫が放浪の旅に出るのは時間の問題だった。
町から町へ、時には船の中に忍び込み、何処までも歩いていった。
 長い放浪生活の間に気づいたことが一つ。
その姿は猫であって、猫ではなくなっていたようなのだ。
変化(へんげ)、とでもいう表現が一番近いのだろうか。
その姿はいつまでも老いることなく、かつての猫のままだった。
 猫の寿命を離れて既に数十年、猫はいなくなった主を捜して彷徨い続けていた。
何処を捜しても見つからないことは、分かっていたのに。


 降り注ぐ雨の中を、レィレは走っていた。
突然降り出した雨。
恐らく通り雨だろうそれは、いずれすぐに止むはずだ。
しかしだからといって、このまま濡れている訳にはいかない。
どこか雨から身を隠せる場所を探さなければ。
 久しぶりに遺跡の外を歩いてみればこれだ。
迫ってきた"その時"に向けて気分を落ち着かせるどころではない。
昨日までいかに天候に左右されない暮らしをしていたのかを強く思い知らされただけだった。
 出来るだけ大きな木を探して、その下に潜り込む。
もう少し人の集まるところに近ければ、よりよい環境で雨を凌げただろうに。
魔法陣の近くには、既に小さな町のようなものが出来上がっていた。
戦いに出る者がいれば、その帰りを待つ者もいる。
帰りを待つ場所を人が作り出すのは至極当然のことだったのだろう。
 人の作ったものは雨風から身を守ることを第一とされている。
それさえ近くにあれば、こんな木の下よりも確実に雨を凌げたのに。
そんな愚痴を言ったところで天気が変わるわけでもない。
溜息を一つついて、レィレは黒く染められた空を見上げた。


 それは本当に偶然だったのだ。
ある日、ふと立ち寄った島で奇妙なパーティが行われたのも。
ある日、戦った人間がその日記帳を持っていたのも。
ある日、振れてみたその魔力に、主の気配を感じ取ったのも。

 思えば、レィレの主は体こそ弱かったものの、
魔力は人並み以上、いや、恐ろしいほどに持っていたのだ。
悔やまれるのは、主自身がその魔力に気づいていなかったこと、
そしてその魔力が主の身を削る要因になっていたこと。
少女の体に、その魔力はあまりにも大きすぎた。

 レィレは主が毎日のように日記を書く姿を見ていた。
変わることのない部屋の中で、日々変化する外の世界を眺めながら。
もし、あの日記帳が主が使っていたものだとしたら。
その力が無意識のうちに働いていたとしても不思議ではない。
彼女の力は彼女の意志に反して発動するのだ。

「彼女ならば、自らの日記帳に命を吹き込んでいても不可能ではない」

 それがレィレの結論だった。
彼女の力は、命無き抜け殻に命を宿し、疲れ果てた魂に再び活気を与える。
一言で言えばとんでもない力だったのだ。
その力の怖さは彼女の近くにいたレィレが一番良く知っていた。
彼女の魂は、今も疲れることなくここにある。
果たして魂が疲れるのが先か、精神が壊れるのが先か。
時折そんな風に自嘲しながらも、まだどちらかの時が来る前兆もない。
とにかくとても迷惑で、とんでもない力だった。
 そんな彼女が吹き込んだ命と、彼女が書き込んだ記録。
これが作用すれば、あの日記帳に現れるだろう命はもしかしたら――彼女、そのものかもしれない。
とても、とても淡い希望。
たとえ同じ知識を持っている生き物が二人いたとしても、その二人が"同じ"であるとは限らないのに。
 それでも確かめなければならない。
確かめるまでは、そこに希望があるから。

 ふと、眩い光が辺りを包んだ。
暫くして鳴り響く轟音。
そう言えば主の文字は、ある特定の日に限って非常に震えていた。
かつてはそんな彼女の反応を楽しませてくれた雷にも、
この薄暗い景色を砕けるだけの力はないようだ。
 いつになったら、この雨は止むのだろう。
 変化のない空に飽きて首をおろしたレィレの目に、一際白い何かが映った。
この薄闇の中に輝く、白い何か。
気がついたときには、レィレは雨の中をその側まで歩み寄っていた。
 それはただの花。
周りの色とは相反する白で佇みながら、その顔は憂いを帯びたように地面を見つめている。
主がかつて、「スイセン」と呼んでいた花だ。
部屋に飾られる花の中でも、彼女はとりわけこの花が好きだった、と話していた。
一度その理由を聞いた気がするが、もう覚えてはいない。
 その花は打ちつける雨の中、微動だにせずただレィレを見下ろしている。
あの時の彼女も、こんな風にしてこの花を見上げていたのだろうか。
この花を見て、彼女は何かを語りかけていたのだろうか。
もしかしたらあの花にも――自分と同じように言葉を話す力が付けられたのだろうか。

「……会えますか? どんな形でも、構いません。……私は、あなたに……」

 尋ねたところでその水仙は何も答えない。答える力を持っていないから。
 その花はただ俯いたまま、止まることのない涙を流していた。


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