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穏やかだった砂の道は途絶え、彼女たちの前には再びその地形が広がった。
リコがこの島で今最も危険と位置づけたその地形が。 天へと伸びる緑の草木は、彼女達の足を絡め取るかのように妖しく蠢いている。 風はどこで歌うことを覚えたのか、不気味なコーラスを振りまいている。 空を漂う雲は鉛色で、まるでこの辺りを隔離するかのように包み込んでいる。 彼女が知る限り最悪の景色。 それがそこにはあった。 その名は、平原。 「シャル! そっちを見ちゃ駄目!」 そういって手綱を軽く引っ張る。 馬の口はとてもデリケートだ。 たとえどんなに慌てていても、思いっきり引っ張ってはいけない。これは馬とのお約束。 それにしても危ないところだった。 後少しリコの反応が遅ければシャルロットが発見してしまうところだった。 あの緑色の怪物を。 それは歩行雑草、という名で人々から恐れられていた。 リコ自身実際に戦ったことはないのだが、遠目に見てその恐ろしさはよく分かった。 あれに近づいてはいけない。 緑色の筋肉はそのままその拳の威力を物語っているし、その顔からしてもお近づきになりたくない。 だが、それだけならまだ良かったのだ。 形の美醜などは倒してしまえばどうと言うことはない。 一番の問題は、それが植物だと言うこと。 「シャル! そっちも見ちゃ駄目! だからってあっちも駄目! あぁもう目を瞑って!」 人間が食事をしなければ空腹を覚えるのと同じように、もちろん馬も食事をしなければならない。 そしてもちろん馬は焼きたてのステーキのようなものは好まない。 その緑の筋肉は、その草食の目にはどのように映っているのだろう。 考えるまでもなく、人間と馬の嗜好は違う。 たとえどれだけ長い間、どれだけ多くの戦場を共に生き延びたとしても、変わることのない大きな隔たりがそこにはあった。 それぐらい理解している。 リコだってそれぐらいは理解していた。 だが、これだけは。こればかりは止めなければならない。 止めなければ、何か大切なモノを失ってしまいそうな気がしたから。 あの緑の怪物に、シャルロットを奪われてしまいそうな気がしたから。 「……えぇい! こうなったら食べれなくしてしまえばいいだけだ! シャルを誑かす奴は、私が粉々になるまで貫いてやる!」 一頭の馬をかけて、一人と一本は今まさに衝突しようとしていた。 PR |
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