人々が行き交う、遺跡外。
魔法陣が効力を失ってから暫くは、随分とこの島からも人が去っていってしまった。
だが、最近になってまたその魔法陣が動き出したらしい。
新たな冒険者や、かつて遠くから見たことがある顔が再びこの島に集まってきた。
俺が探しているのは、そんな"かつて見た顔"。
時に近くで協力し、時に遠くから励まし合った仲間であり、共に宝玉を狙うライバル。
小さな町のように整った道の端にしゃがみながら、じっと行き交う人々の顔を眺めていた。
ここ数日そんな顔を探しているのだが……まだ出会えてはいない。
何人かは恐らくまた戻ってくるはずなのだ。
別に会って何かを話すという気があるわけでもない。
ただ、俺がまだここに残っていると言うことを伝えておこうというだけだ。
そう、会ったところで今の俺に何が出来るかと言えば、何もできない。
今はまだ遺跡の中に潜れるほどの体力は戻っていないし、
そもそもかつてのように装飾を作れるほど指さえまだ動かない。
それでもここにいることを伝えておいて損はないだろう。
いつか、何かの役に立つことがあるかもしれないのだから。
しかし、いつまでもこうして眺めていることはできない。
全身に疲労感を覚えた俺は、立ち上がって杖を地面に立てた。
俺は先の冒険で負傷し、今は遺跡外のある宿屋で休養している。
今でも数時間外でしゃがんでいるだけで疲れるぐらいだ。
受けたダメージの回復速度は随分のんびりしたモノだった。
せめてプラスであると言うことが幸いなのだろう。
誰か、遺跡の中に潜るモノに伝言を頼んだ方がいいのだろうか。
遺跡の外で、数時間しか探せない俺よりは、
遺跡の中に潜るものの方が彼らに遭遇する確率は高いかもしれない。
だが、一体誰に頼もう。
そもそも探しているのが知己なのだ。
頼むとなると名前も知らない他人と言うことになる。
余程信頼できそうなモノでなければ頼めないが……そんな人物、簡単に転がっているだろうか。
宿屋にたどり着いた俺は、少し異様な光景を目撃した。
どうやら一人の少女が宿の主と口論しているらしい。
「だからこの宿は動物でも入れるのだろう!?
だったら何故シャルロットだけが外に追い出されるのだ!」
「あんたねぇ……いくらこの宿がペットの連れ込みを許可してても……それは無理だよ」
後ろ姿から分かるのは金色の髪と戦士らしい鎧。
声からは俺より年を取っているように見えないが、そんな年で騎士でもやっているのだろうか。
彼女の隣では白い馬が静かに佇んでいた。
……そうか、シャルロットというのは馬のことか。
それは何とも、この宿では難しい要望だ。
それにしても、彼女はあれだけ憤怒の声を上げながらも自分の得物には手を掛ける様子がない。
シャルロットと呼ばれた白い馬に積まれた荷物には、彼女の持ち物と思われる大きな槍があったというのに。
ある程度の弁えはあると言うことか。
騎士、というぐらいなのだから約束には誠実であるだろう。
彼女ならば俺からの伝言を請け負ってくれるかも知れない。
「もう良い! そんなにもシャルロットを追い出したければそうするが良い!
そのかわり私もシャルロットと共に馬小屋に泊めてもらうぞ!」
少し俺とは考え方が違うところがあるようだが、小さなことだろう。
こうして俺は、その少女……「リコ・メルシェ」に数通の伝言を渡すことになった。
後日談。リコ・メルシェは見事にシャルロットと共に宿屋の一部屋を勝ち取ることが出来たらしい。
流石に、客を馬小屋で止める宿、などという噂が流れては困るということなのだろう。
PR