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FalseIslandという定期更新型ゲームに参加中の、リコ・メルシェ(1227)の日記の保管とかPLの戯言とかです
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クレッシェンドティンパニ



 レィレが差し出したのは二つの赤い風船。
それは何の変哲もない、ただの風船のようだった。
 これだけ冒険者の年齢に決まりがない島だ。
このような子供を楽しませるための風船があることに対しては、グラスレイは何ら疑問を持たなかった。
 だが、彼らの中にそれを持って喜ぶようなものはいない。
訝しげにそれを見つめていると、レィレはそれを膨らませと言ってきた。
彼女の言う通りに、その風船を膨らませる。
一つは小さく、彼の手で簡単に包み込めるほどに。
一つは大きく、今にも割れてしまいそうなピンクに染まっている。

「リリューテル、まずはこの小さい風船に牙で穴を開けて下さい」

 リリューテルと呼ばれたその狼は、ゆっくり近づいていく。
風船というものを知らないのだろうか、その足は何処か震えていた。
 彼女は数日前から俺達についてきていた狼なのだが、何処か頼りないというか、臆病なところを持っていた。
今もまた、風船を前にしてどうしようか悩んでいる。
前足でつついたり、転がしたりして安全を確かめているようだ。
いつまでそれが続くのだろうと呆れながら、グラスレイはレィレに向き直る。

「……何をやりたいんだ?」

 俺の質問の隣で、空気の抜ける音と小さな悲鳴が聞こえた。

「次はこの大きな風船をお願いしますね」

「あ、はいっ」

 先程の小さな風船で要領を掴んだのか、今度は返事にも元気がある。
素早く次の風船に近寄り、思い切りそれに噛みついた。


「で、お前は何をやりたかったんだ?」

 今、グラスレイの隣ではリリューテルが目を回して倒れている。
彼女の周りにはかつて風船だった残骸が散らばっていた。
彼はもう少し空気を少な目にしておくべきだったかと少し後悔したが、それももう後の祭り。
狼が風船にトラウマを持たないことを小さく祈ることしかできなかった。
なぜなら、今後風船型の敵が出て来る可能性もあるのだから。

「このように、風船は空気の大きさによっては割れても大したことはありません」

 倒れた狼を一瞥して、レィレはその口を開いた。
次に来る説明を連想したのか、グラスレイは眉間にしわを寄せた。

「だから大したことがないうちに割ってしまえと言うのか?
 これにはもう、蚯蚓一匹を葬れるだけの空気が蓄えられてるんだろ」

 問題の日記帳に、彼の手がそっと置かれた。
彼らは決して歩み寄ったわけではなかった。
 レィレが動いている以上、グラスレイがそれに対して行動を起こすことはなかったが、
だからといって自分たちの置かれた状況に安心しているわけでもない。
これだけ特殊な遺跡、それも奇妙なパーティの会場だ。
この危険物を封じるだけの実力を持った術士の一人や二人、この島にいないはずがない。
グラスレイの方にも、いざというときの対処法はいくらかあるのだ。

「……先日例えたブラックホールですが、
 実際のブラックホールが出来上がるためには相当の質量を必要とします」

 だからその質量が貯まる前に割ってしまえばいいと言う。
割る、といっても少しの攻撃ではこのようなものはびくともしないという。
先程リリューテルがやったように、穴を開けるだけではすぐに塞がってしまうらしい。
確かに、簡単に割れるのならば、ガルドンの事件の時にすでに壊れていたはずだ。

「で? どうやってそれを割ろうとするつもりなんだ?」

「作業自体は簡単なことですよ。風船に一度に沢山の空気を送り込めばいいのです」

 静かに空気を送り込んでいては、割れるのが遅くなる。
遅くなると言うことはつまり、十分な質量が貯まると言うことだ。
だが、一度に空気を送り込めば、瞬間にゴムにかかる圧力は大きくなる。ゴムが耐えきれないほどに。
 だが、本当にそれは安全な策なのだろうか。
彼女の話で考えると、ガルドンは穴を開けたときにわずかに出た空気で吹き飛ばされたことになる。
彼女がやろうとしていることはそれとは規模が違う。
そんなことをすれば、彼女自身も危険にさらされるはずだ。
 グラスレイにはレィレの真意が掴めなかった。
彼女が全てを伝えていないことは明らかだ。
彼女は何をしようとしている?
人間は猫の表情からその心を読み取る術は持ち合わせていない。

その空気を集める方法が少し厄介ですけど、ね」

 だから、私一人ではどうしようもないのです。
そのときの呼吸は溜息に聞こえた。
だが、彼女の説明を受けた限り、その作業はグラスレイにも実行しきれるか分からなかった。
この日記帳にとっての空気は魔力。
その魔力を効率的に集めるには……強力な塊から奪えばいい。
水は高いところから低いところへと流れる。
水が大量に入った大きな水槽に、小さな水槽をくっつけ、その接した部分に穴を開けることが出来れば。
水は小さな吸いそうに流れ出し、やがて溢れる。
 だが。
これははたして水槽なのか?
水は確かに高いところから低いところへと流れていく。
その原理ならば彼女の言うことも理解できるだろう。
だが、これがブラックホールになるような星なら。
星に高いも低いも関係ない。どちらも空にあるものだ。
 彼女の比喩に翻弄されている。
この本が持っているのは空気でも、水でも、星でもない。
魔力なのだ。

「そこまでして、この日記帳から何を得ようとしている?」

 揺らぐだろうか。比喩で曖昧にされたその本質が。
そんな淡い期待に乗せて問う。

「……あなたは、私が何に見えますか?」

猫の目が閉じられた。
そう、猫だ。グラスレイから見ればレィレは一匹の山猫でしかない。
――ただの山猫が、これほどの知識を持っているものなのか。
この遺跡の中で育ったものに、それだけのことを得る機会があったのだろうか。

「どうやら、俺は厄介なモノに出会ってしまったらしいな」

「言ってしまえば、この遺跡そのものが厄介ですよ。
 ……入りましょうか。私達の作業に、あと一つぐらい助っ人が必要です。
 私よりも強力な、実力を持った生き物が一つ」

 そう言って猫は消えてしまった。魔法陣を思い浮かべたのだろう。
消える間際に猫の顔が寂しげに笑ったように見えたのは、グラスレイの気のせいだったのろうか。

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