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丸月菱形の日 空蝉の夢 (記録者:グラスレイ)
未開の遺跡というものは総じて侵入者を拒むものである。
どこに心の底から侵入者を歓迎してくれる遺跡があるだろうか。 侵入者に危害を加えず、財宝まで導いてくれる遺跡など聞いたこともない。 そもそも、そんなものは最早遺跡ではない。ただの遊園地のアトラクションだ。 まず、未開の遺跡というのは大抵隠れているモノである。 未開なくせに世界に知れ渡っている遺跡なんて、滅多にない。 あるとすれば、この遺跡のように誰か物好きがその場所を広めるか、 あるいはどんな侵入者も入り込ませない程の罠や守護者が置かれているか。 尤も、後者のような遺跡はまず存在しないだろう。 遺跡はその名の通りその時代よりも前に作られた物だ。 そのため、文明が後退したとかそんなとんでもない大事件が起こったりしない限り、 そこに仕掛けられている障害は一昔前のものということになる。 仮にそれが最新の障害としてその遺跡に設置されたとしても、時代が進めばそれも過去。 落とし穴などは一度開けばもうそれでおしまいと言う物が大概だし、 毒ガスを吹き出すような罠もガスがなくなってしまったらもう罠としては使えない。 天井が落ちてくるような罠も、何度も繰り返すうちに装置が壊れてしまうかもしれない。 いつまでも当時の性能を維持できるような罠など、そう簡単には作れないのだから。 かといって、永久機関的な罠があれば大丈夫なのかと言えばそうでもない。 たとえしばらくの間は侵入者を防げたとしても、いずれそんな物は克服されるようになってしまうものだ。 罠の数は有限だが人の数には限りがないからだ。 話が少し逸れるが、その点においてちょっと工夫されていた罠があった。 罠とは何も自動で侵入者を察知して動く物ばかりではない。 遺跡と言う枠にこだわらなければ、人が動作に関わる罠などいくらでも挙げられるのだ。 そんなわけで、遺跡よりは要塞向けの罠を一つ書き出しておこう。 確かこの島に来て最初の日記に少し触れた覚えがあるのだが、それは「エレベーター」と呼ばれる落とし穴だ。 それもただの落とし穴ではない。相手を箱に封じ込めてから穴に落とす罠なのだ。 俺がそれを体験したときは平和的に利用されていたため、命を落とすことはなかった。 だが、もしそれが俺に敵意を持って作動していたとしたら。 考えただけでも恐ろしい。 こちらはただでさえ箱の中に封じられているのだ。 その穴の下に爆弾なんかが設置されていたら逃げようがないではないか。 それならばその箱を壊して脱出すれば良いではないか、と普通は考えるだろう。 だがその罠はそんな侵入者の一歩先を読んでいるのだ。 なんとその罠の中に一人、「エレベーターガール」という侵入者の気を引きつけておく役の人間がいるのだ。 もちろん、ガールとつくだけあってこの場合はその役は女性のようだ。 侵入者が男だと色目を使って思考能力を奪う。 女の場合でも男よりはいくらか警戒心されない。 恐ろしい役柄だ。 恐ろしいのは相手を油断させるその技術だけではない。 もちろん自分も罠の中にいるのだから、罠が侵入者にとどめを刺す前に自分が脱出しなければならないのだ。 罠を仕掛ける側が罠にかかっては元も子もない。 その箱から脱出する手段を知りながら、かつ侵入者にそれを知られず一人だけ逃げ出す。 万が一気づかれた場合に戦闘だってバリバリ出来なければならない。 それもあの狭い箱の中で、だ。 恐ろしい技術だ。 こういう奴らはその場所での戦いに慣れているため、普通の戦士よりもかなり厄介な敵となる。 地の利、そして罠の中にいるという焦り。 この二つのハンデだけでもとうてい勝てる気がしない。 俺はそれ以降エレベーターには絶対に足を踏み入れないと心に決めた。 ところで、「エレベーターボーイ」と言う物にはまだ会っていないのだが、 そいつらはどのような方法で侵入者の気を引くのだろう。 感じのいい青年が笑顔で侵入者を迎えるのだろうか。 まっそぅな奴が箱の片隅にいて、威圧しているのだろうか。 それともあるいは、人生に疲れた感じの奴が同情を誘うのだろうか。 侵入者を待ちかまえる敵のバリエーションは豊富だ。 念を押しておくが、エレベーターを見つけたらまず近寄らない方がいい。 それは現在最新鋭の罠だ。一度はいると出てこれる保証は、ない。 バリエーションで思いついたのだが「エレベータージーチャン」とかもあったりするのだろうか。 何だか名前からして会話も上手くて戦闘もかなり手練れのはずだ。 もしこんなのがエレベーターの中で待ちかまえていたら本当にご愁傷様だ。 それで、何だっけ。 そうだ。侵入者を待ちかまえる障害についてだ。 このエレベーターのような恐ろしい罠も、遺跡になってしまえばそれほど怖くはなくなる。 遺跡になっているのだから、当然エレベータージーチャンもそこにはいない。 動かす物がいなくなったエレベーターなど、ただの箱だ。 このように、罠という物は長い間遺跡を守る障害としては非常に頼りない。 そこで出てくるのが守護者だ。 長い間その場を守り続けるゴーレムなどが良い例だろうか。 こういう奴らは罠のように動かす物がいなくても動き、その動きも単純ではない。 倒してしまえばそれで終わりなのだが、その倒すのが大変である場合が多々あるのだ。 そのため、罠とは違った方向で厄介なのだ。 考えたら、「エレベーターゴーレム」って最悪な組み合わせだよな。 エレベーターから離れよう。 この遺跡も例外ではなく、そんな障害が仕掛けられていた。 遺跡に凄む者達が襲ってくる時点で、十分障害となっているのだが。 それは先程書いた罠とも、守護者とも違う。 俺のような冒険者にとって最も厄介な障害。 それは、呪い。 例えば突然狂ったように笑い始めたり。 例えば志半ばで息絶えた仲間が起きあがって襲ってきたり。 例えば突然強烈な腹痛に襲われたり。 術などに疎い俺にはそれがどういう原理で持続しているのかなんて分からない。 だが、特に死者を操るような呪いは厄介だ。 侵入者が多いほど守護者が増える。 俺は昨日の夜に、おぞましい者を見た。 それはこの遺跡に元々住んでいた者のなれの果てなのだろうか。 あるいは遺跡の財宝を目当てに挑んだ侵入者の末路か。 それは人の白骨だった。 それもただの白骨ではない。 心臓を失いながらもなおこの世をさまよい続ける白骨、つまり亡霊だったのだ。 そいつらは迷うことなく俺の元へ歩いてきた。 咄嗟に斧を構えたが、正直勝つことは難しいと感じていた。 一人と一匹で立ち回るにはあまりにも数の差がありすぎる。 よく演劇やらでは数人の主人公が無数の雑魚をバッサバッサと切り捨てていくシーンがあるが、あんな物は所詮虚構だ。 現実はそんな綺麗に敵は倒せない。 数の差はそのまま戦力の差となり、勝敗を分ける要因となる。 だが、その場でうずくまるような真似は出来ない。 俺は辺りに漂う絶望を感じながらも、ほんの幽かな希望に未来を託して駆け出したのだ。 何故かスケルトンのお嬢さん達との世間話を満喫してしまった。 いやほら、やはりこういった窮地では平和的解決を望む姿勢が役に立つのだ。 たとえやせ細っているとはいえ、相手は元人間。 多少言葉が通じなくても、ジェスチャーとかいろいろを織り交ぜかき混ぜ何とか戦闘を回避したのだ。 死者の話というのはどうもユーモアに富んでいる。 朝気がついたら胴体の寝相が悪くて大変な目にあったとか、 時々他人の骨が自分の体に混じっていたりとか、 犬に一部の骨をもっていかれそうになって四苦八苦したりとか。 俺のような生きている人間には到底経験できない話ばかりだったのだ。 やはりこういう自分とは全く違った世界に生きている者の話というのは聞いていて面白い。 一通り話し終えた後、彼女達は俺に戦闘の宣言をして帰ってしまった。結局戦うのか。 尤も、何だか彼女達は話し相手になってくれたお礼だとかで、俺が勝とうが負けようが「イイモノ」をくれると約束してくれた。 良い物とは何だろうか。彼女達の骨を渡されたらちょっと対応に困る。 ともかく、敵となる者が皆完全な悪人と言うわけではないのだ。 中にはこのような心優しい敵もいる。 尤も、戦いは全力で挑んでくるような口振りだったが。 それはこちらとしても望むところだ。 戦闘の中に敵に与える優しさなど無い。 戦うときは全力で。それが戦いに身を置く者の鉄則だ。 そんな間違った優しさで相手が喜ぶはずもないし、そもそもそれで自分が足下をすくわれる可能性もあるのだから。 何にせよ、この戦いの先に何があるのか。 俺はそれを見極めるためにこれから戦場に赴く。 レィレには申し訳ないが、この無謀な戦いにつき合って貰うことになる。 勝敗がはっきりするまで戦い続けるのがこの遺跡のルール。 一度出会った敵からは戦える活力がある間は逃げることが許されない。 この愉快なパーティに、臆病者はお呼びでないのだ。 PR |
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