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丸月黒四角の日 足跡を振り返れば (記録者:グラスレイ) (日記の後半は若干暗い感じだよ) (その上推敲できそうにない。ノロわれたっ!)
一昨日、昨日、そして今日。
俺は移動中などにぴょん大吉の姿が見えないか、そんなことを期待して辺りを見回していた。 だが、これだけ待って追ってこないのだから、ぴょん大吉とは完全にはぐれてしまったのだろう。 いや、仮に追いつけたとしても、今の俺の状況ではあいつは近づいてこれない。 何故ならいつの間にか山猫が懐いてしまったからだ。 例えぴょん大吉が近づいても、この猫に怯えて近づいてこれないだろう。 あいつの能力だけでは、この猫に勝つことはほぼ不可能なのだ。 そして悲しいことに、俺はそれでも構わないと思い始めているのだ。 この猫は、落とした日記帳を持ってきてくれた。 投げすぎた斧を守るために野犬を威嚇しててくれた。 まるで俺の心を読み取ったかのように俺のサポートに回ってくれている。 こいつ以上に有能なペットが、果たしてこの遺跡内にいるのだろうか。 ぴょん大吉と猫とを天秤に掛けなければいけないなら、間違いなく俺は猫を選んでしまうだろう。 この危険な遺跡の中で生き残るためには、より強いモノを従えていかなければならない。 単純な数の多さで勝てるほどこの遺跡は温くはないのだ。 切り捨てたモノのことは忘れろ。俺は何度も自分に言い聞かせた。 しかし言い聞かせたとおりに頭は動いてくれない。 俺は、ぴょん大吉と過ごした日々がどうしても忘れられないのだ。 平原を掛けるぴょん大吉。 俺を庇って倒れるぴょん大吉。 俺に微笑みかけるぴょん大吉。 上目遣いで俺を見つめるぴょん大吉。 ちょっと思い出を誇張しすぎた。 さすがに兎が笑ってるかどうかなんて俺には分からない。 残念ながら昔のことをサクッと忘れられるほど、俺の頭は掃除が上手ではないようだ。 もしかしたら、逃げるよりも立ち向かう方がスッキリとするかもしれない。 そうだ。頭の隅にただ押し込んでいるだけではいつか雪崩てくる。一度整理すればいいのだ。 隅に押し込むのはそれからでも遅くはない。 少しだけ、真剣にぴょん大吉のその後を振り返ってみよう。 外に出た時点ではあいつの姿は俺の隣にあった。人混みの中でも何とか俺についてきていた。 だが俺が遺跡外で買い物をしている間に、あいつはいなくなった。 ということは、今もあいつは遺跡外にいるのだろうか。 少なくとも遺跡外ではぐれたのならまだあいつの身は安全かもしれない。 さすがに遺跡の外でまで兎を狩ろうとする冒険者もいないだろうし、 遺跡の外ならば凶暴な動物もいなかった。はずだ。 遺跡の中よりずっと穏やかに時が流れ、 俺達冒険者にとっても遺跡に棲む者にとっても安息の地。それが遺跡外のはずだ。 そうだ。きっとぴょん大吉は遺跡の外でのんびりと第二の人生を送っているに違いない。 もしかしたら他の冒険者に餌付けされて遺跡内に来ているという可能性もあるが、 草やパンくずで飢えを凌いでいる俺についてくるよりは、ずっと良い食生活が期待できるだろう。 そう考えると俺の心の荷も少しは降りたような気がした。 ぴょん大吉はきっと今幸せなのだ。 いや、待て。 ぴょん大吉はあの厳しい遺跡内でさえ俺についてきたのだ。 一度はぐれたからといって簡単に俺を捜すことを諦めるだろうか。 他の冒険者に餌を与えられたからと言って簡単にそいつについていくだろうか。 ぴょん大吉に何か起こったとは考えられないか。何か、重大なことが。 あいつがいなくなって何が起こった? そう、代わりに猫がやってきたのだ。 ぴょん大吉と猫が何の関わりもなく入れ替るということがあり得るだろうか。 何らかのやり取りがあった可能性も考えられる。 兎と、猫だ。 鼠と猫程ではないにせよ、この組み合わせは非常にまずい。 この猫だって、何かを食べていかなければ生きていけないのだ。 俺から餌を与えていないのに、今もこの猫は満腹そうな顔をしている。 恐らくどこかで何かを狩っているのだろう。 それを考えると、この猫がぴょん大吉をただの野兎と見なして―― ストレートに書こう。ぴょん大吉がこの猫に喰われたと言う可能性もある。 別に、だからといって俺から猫を咎める気はない。 猫が兎を喰うことを罪とするなら、自力で養分を作り出せない生き物は皆罪人になってしまう。 俺だって他の生命を食べて今を生き延びているのだ。 むしろ、俺のように戦うことを仕事としている者は、 普通に生きるよりも遥かに多くの命を奪って生きている。 街から街へ移動するときに何匹の魔物を叩き割ったかなど数えられない。 戦場で何人の兵士を切り捨てたかなど覚えていない。 賞金のついた罪人だって追いかけた。 村を襲う小悪魔の群れも躊躇せず切り裂いた。 助かる見込みの無い仲間は見捨てて先へ進んだ。 重傷を受けて見捨てられたことだってある。 全て俺にとっては日常なのだ。 武器を手に取ったときにこんな未来は覚悟していた。 もちろん、その時に全てを受け入れられたわけではない。 自分の罪に怯えることもあった。 罪に言い訳をしたこともあった。 罪を忘れ去り、目を瞑ったこともあった。 今から振り返れば、全て無駄な抵抗だったのだ。 最初に武器を振るった時点では、怯えたところで他に生き延びる術など無かった。 言い訳をしたところで、自分の行為が正しくなるはずがなかった。 忘れたところで、自分の罪が無くなることがあるだろうか。 結局、俺には罪を背負っていくことしか出来ないのだ。 日に日に重くなっていく罪に潰されるその時まで。 全て小さなことだ。 猫が兎を喰らうことも。 誰かが遺跡に棲む者を倒すことも。 誰かが遺跡に棲む者に倒されることも。 この遺跡の中ではいくらでも起こっていることだ。 それ自体が大きな事件であるはずもない。 だから俺も遠慮せずに敵を消してしまえばいい。 なのに、ここへ来てからの俺は何をやっているのだろう。 最初に戦ったぴょん大吉は俺の手で消えたわけではない。むしろまだ生きているかもしれない。 山猫は今も俺の側で寝ころんでいる。 昨日戦った野犬だって結局止めを刺しきれず、変な目で見つめてきたのを山猫が追い払ってくれた。 この島の生き物は頑丈だ。 だからといって、それならその分確実に止めを刺せばいいじゃないか。 なのに、どうしてか必要以上に攻撃をする気分にならない。 弱りきった獣に大して、斧を振り下ろすことができないのだ。 戦意のないモノには攻撃をしないなんて美学、俺はいつの間に学んでしまったのだろう。 それが仇となって反撃を受けることだってあるのに。 それでかつて酷い目に遭ったことだってあるはずなのに。 今までの経験がまるで活かせていない。 一度気合いを入れ直そう。 俺に懐いたところでこんな遺跡の中だ。いつどんな負傷をするか分からない。 そんなことを考えてると、嫌な思い出が浮かんできた。 ある男は俺を庇って。 ある機械は敵の軍隊に飛び込んで光を放って。 いや、わざわざ一人一人書き出すのは止めよう。辛くなるだけだ。 ともかく、そんなことがあって俺はある時から、不必要に長い間他人と同行することを止めたのだ。 仲間が必要ならばその場で作り、やることが終わればそこで解散。 無理についてくる奴も中にはいたが、全て撒いてきた。 適当に笑い合いながら、その裏ではお互い何を考えているか分からない。 仲間という絆なんてそんな細い糸で繋がれているのが丁度良い。 あまりに太くなりすぎると、切れた音が虚しく響くだけだ。 もし、この猫が俺を何らかの形で利用するためについてきているのなら、俺としてはむしろ歓迎だ。 それなら俺の昔の仲間のように馬鹿なことはしないはずだから。 ただ最終的な利害が俺と対立しないことだけは祈っておこう。 だが、問題となるのはこの猫だけではない。 これから先にも俺についてくる獣がいないとは言い切れないからだ。 猫が追い返してくれたとはいえ、あの野犬も俺を追いかけようとしていたのだし。 気合いを入れ直そう。 敵である間に消してしまえば何の問題もない。 ぴょん大吉の例のように、はぐれたり、別れたりした後で後ろ髪を引かれることもなくなるのだ。 俺は今までやってきたように、敵と戦えばいいだけだ。 この手で何度も繰り返したことをこの遺跡で行うだけだ。 俺の手はもう血に塗れているのだから。 俺が生きていくことは、罪を重ねることなのだから。 今更敵に情けを掛ける必要など、ない。 PR |
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