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FalseIslandという定期更新型ゲームに参加中の、リコ・メルシェ(1227)の日記の保管とかPLの戯言とかです
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その奏者は、指揮をしているつもりらしい




 人間、というのはいまいちよく分からない感情を持っている。往々にしてレィレはこう思うことがある。
先程からグラスレイは、地面に突き立てた斧を前に、目を瞑って何かを考えている。
精神を高めるためのトレーニングの一種か、あるいは何かを考えているのか。
そう言えば、大乱戦の後からずっと難しい顔をしていたが、それが原因だろうか。
 あの戦いを見れば、そんな顔をするのも分からなくはない。レィレには分かるだけで共感は出来なかったが。
実力不足。そう言う類の言葉が的確だろうか。
彼が組んだ双子と比べても、彼が戦った相手と比べても、彼の身体的な戦闘能力は劣っていた。
猫の目から見てもそうなのだから、間違いはないだろう。
 彼が必死の形相で戦っている中、双子の一人は彼の得物を足場にするという大胆な攻撃までしていた。
連携ならば、一人では出来ない効果的な攻撃も不可能ではない。
が、本来二人いる空間が一時的に一人になるのだ。どうしてもその攻撃には隙が出来てしまう。
それなのに彼女は、お互いにとって不利な隙を生まないタイミングでグラスレイにその声を掛けた。
敵の動きだけではなく味方の動きもはっきりと把握しなければ出来ない技だ。
そういえば、あの双子はどちらとも全体を見渡した行動が出来ていたが、どこかに気象衛星でも打ち上げていたのだろうか。
 もう片方の双子にしても、妙な力を使っていた。他の二人とは比較のしようがないほど特殊な技だ。
生命力を扱うという点では、ある意味彼の持つ日記帳に近いのかも知れない。
だが、自らの意思でコントロールできるという点で質が違いすぎる。
 出会うモノ全てが彼を凌ぐ実力者。そんな状況にいたヒトに難しい顔をするなというのは無理なのだろう。
 ヒトはヒトより下にいることを嫌う。
ある一人の例外を除いて、レィレが見てきたどのヒトにも共通してそれは言えた。
自分よりも小さな子供達と比べてその状態にあれば余計にだろう。
 ヒトは見た目では判断できない。こんな島では特に、だ。
世界を歩いて回れば、驚異的な能力を持った子供もいれば、幼子のように次々と物事を覚える老人もいる。
何千年と子供の姿を保つモノもいれば、口を開く猫もいるだろう。
それでも納得できないものというのはあるのだろう。
何年も冒険者として生きてきた自負もあるはずだ。
 彼が劣ることを悔しがり、嫉妬の感情を抱くのか、それとも精進するのか、どちらのヒトなのかは知らない。
今こうして静かな空間が生まれていることがその答えだろうか。
それならば今日からの彼の訓練が今まで通りでないだろうことも予測できる。
 だが、レィレには理解できないプロセスだ。
劣っているからといって、追いつく必要があるのだろうか。
必要以上に努力したからといって、それに比例して実力も上がるとは限らない。

 それに何より、彼の努力が実を結ばない大きな原因がある。
 ――少なからず、彼も吸われているのだ。あの日記帳に。
どれだけ訓練をしたところで、生命力を吸われている状態では殆どプラスにはなれない。
直接命に関わるほどの量ではないにせよ、ただでさえ伸びなくなりつつある成長を奪うには十分だ。
彼がもう少し年を取っていれば、マイナスになっていたかも知れない。
彼でさえそうなのだ。レィレにとっては、グラスレイという傘がなければ既に危険な状態にあっただろう。
小さな生き物ほど生命の維持に使う生命力は少ないが、その分蓄えられる力も少なくなるからだ。
グラスレイに近づく際にいた野兎などは、追い払わなければ今頃干からびていただろう。
傘の使い方を知らないのは致命傷だ。
 ともあれ、彼の成長は今非常に小さいモノになっている。
逆に、彼が失った成長によって日記帳の力は肥大しているように見える。
特に顕著なのが命を吸う力とは別の、生物を『惹き付ける力』。
 元々の力であった文字を吸い取るためにも、人がそれに興味を持たなければいけない。
そのために出来ただろうその力は、今では小悪魔さえ惹き付ける程になっていた。
いや、これは単純に日記帳の力だけによる成果ではないのかも知れない。
グラスレイにもそれに似た特性はあるようだ。
レィレはグラスレイの過去をはっきりと知っているわけではないが、
時折聞く話によると、まともではない仲間が集まることが多かったらしい。まともでないのは今もか。
力とは言えないまでも、そういった『特殊』を引き寄せる特性はあるのだろう。
それとも類は友を呼ぶ、なのだろうか。
そうなるとレィレ自身もその類になってしまうので、その考えは否定しておいた。

 何にせよ、彼のその特性だけは日記帳につられて伸びている可能性がある。
相乗効果。彼自身が破滅に向かう砂時計のくびれを大きくしているのはどういった皮肉なのだろう。
だが、彼を駒として選んだ以上その皮肉でさえ利用しない手はない。
 磁石のように他の生き物を吸い寄せる彼らならばこそ、次々と遺跡内に徘徊する生き物を集めることが出来るのだ。
それでいて他の冒険者を吸い寄せないのは不思議な話だが、むしろ好都合なので気にする必要はない。
彼らの力がなければ、あの小悪魔が目を向けることもなかっただろう。
あとは上手く交渉すれば、またひとつ仲間が増える。

 ふと、どうして彼ら――グラスレイと日記帳――が一カ所に存在するようなことが起こったのだろう、
という疑問がレィレに浮かんだ。
いくら彼らが磁石に例えられるとはいえ、実際に引き寄せるモノ同士が引き合うことは滅多にない。
それも、特殊なものを引き寄せる同士なのだから、お互いの相性は磁石で言う同極同士のようなものであるはず。
彼らが人と無生物だからこそなのか、
それとも、このような千人以上もの人を集める島の前では、彼らの磁力が起こす反発などあってないようなものなのか。

 自分が考えたところで分かるはずがない。レィレは自嘲気味に溜息をついた。
彼ら自身が考えたとしても分からないだろうことだ。
 何にせよ、砂時計が落ちきる前に、砂の城が崩れきる前に全てを終わらせなければならない。
無駄なことを考えるよりも、今はその策を固めていくべきだ。
あと一度遺跡外に戻ったときに、全ての準備を終わらせよう。
 グラスレイの方を見ると、彼はまだ何かを考えているようだった。
たとえ目を閉じていようと、レィレには彼が立ち止まることを許す気はない。
彼は選ばれた奏者の一人。
ならば、それに相応しい演奏をしてもらうまでのこと。
この曲が終わるまで、抜けることは許されない。
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